あとがき

 生まれ育った鎌倉の子供の頃の思い出を書き留めておこうと、軽い気持ちで書き始めましたが、生来の探究心がうずき出し、万葉の時代にまで遡ってしまいました。今更ながら日本の歴史に占める鎌倉の重要性を強く認識させられました。
 自宅横の稲瀬川(美奈之瀬川)も今は暗渠となって目にすることが出来ませんが、古の時代には、水量豊かな美しい川だったのかなと想像するだけでも、何故か心が安らぎます。鎌倉幕府ができるより、ずっと前の7世紀頃から、鎌倉の歴史が始まったようです。鎌倉の地名も、「可麻久良」「可満久来」等と色々な当て字が書かれています。いつの時代から「鎌倉」と言う地名になったのかを調べるだけでも、時が経つのを忘れてしまうほどでした。
 百歳を超えて、鎌倉を知れば知るほど面白いということも分りました。同時に今の時代の情報量の豊かさにも驚かされました。私が何ヶ月もかかって調べていた谷崎潤一郎が総監督をした。「アマチュア倶楽部」についても、息子は瞬時にコンピューターで資料を探し出し提供してくれました。
 家族の手伝いもあって、百三歳を目前にして何とか出版に漕ぎつけた事は嬉しい限りです。昔の思い出を書いていると時に、四歳にして亡くなった冨美子のこと、二十六年前に亡くなった家内の學子のことも思い出します。初めて海外旅行で家内とともに訪れたウィーン大聖堂の荘厳さに接したときの感動を詠った詩も、拙いものですが、家内との貴重な思い出のひとつなので、恥を忍んで載せてみました。
 最後に、石井印刷の石井照彦さんには、このたびの出版にあたり、我儘を申しても、昔からの長いお付き合いに免じ、お許しくださり、深く感謝しております。
 また、資料の収集を手助けしてくれたり、励ましてくれたりした子供、孫、そしてそれぞれの家族の皆にも感謝の気持ちを伝えたいと思います。

平成26年(2014年)5月18日
             石渡弘雄

「夢また夢の思いで草」
2014年6月20日第一刷発行 
著者 石渡弘雄
発行所 石井印刷株式会社