鎌倉市図書館創立百年を迎えて
寄稿 平成二十二年六月十五日 石渡弘雄
鎌倉市図書館には本年創立百年を迎えられ心よりお喜び申し上げます。
明治四四年七月、町立図書館として、現在の第一小学校内に創設、開館されました。奇しくも実は私も同じ明治四四年六月にこの鎌倉に生を享け今年で百歳となります。ともに歳を重ねてきたものとして、こんなに喜ばしい事はありません。
この百年を省みますと本当に感無料のものがあります。
図書館にとっても私にとっても又日本にとってもこの百年は大変な時代でした。
なかでも最も強く記憶にあるのは、大正十二年九月一日午前十一時五十八分の関東大震災でした。阿鼻叫喚。今も思い出す度に身の毛の弥立つ思いが避けられません。湘南地区全体が地震と津波により大被害を受けました。
当然図書館も倒壊。いつまでも続く不気味な余震の中から苦労して掘り出した。八百冊の本は今も大事に保管されていると伺いました。その後小学校の教室に曲がりをしていた時期もありましたが、昭和十一年十月には篤志家の寄付により新たに大町の御用邸後に設立開館されました。
一方、時局は中国での事変勃発に始まり、遂には太平洋戦争と戦時下の時代に激変。昭和二十年の敗戦による終戦まで日本中が苦難の時代を歩むことになりました。戦後は改めて国民が一丸となって復興に取り組み今日に至りました。
その間鎌倉図書館も苦難の歴史の中を歩み今日では関係者の大変な努力によって鎌倉市図書館へと更には鎌倉市中央図書館と改称され現在では神奈川県最古の図書館として内容を充実され大いに市民文化の向上に貢献されています。
私にとって図書館には熱い思い出があります。大正十五年、その頃、私は横浜の神奈川工業の三年生。土曜日の午後よく当時の国鉄横浜駅の裏口から静かな町並みを抜け、野毛の図書館に通いました。好奇心の強い若者にとって、読書は或るときは、教師、或るときは反面、教師として私の未熟な世界を広げてくれました。或る夏の日、思い立って、鎌倉の自宅から野毛の図書館まで自転車で向かいました。なんとしても本を読みたいと言う熱い思いがさせた往復四時間の厳しい道のりでしたが、今となってはそれも懐かしい思い出です。
今日では、IT技術の未曾有の深化による情報社会の様相には想像を絶するものがあります。その様な状況の中、例えば個人の本棚代わりにしたいとか、昨今の図書館に対する市民の要望は大きく変わってきていると聞いております。私は読書離れや脱活字と言われるこの様な時代であればこそ、改めて図書館の役割を思い起こすことが必要ではないかと考えております。
鎌倉は中世にあって社会的にも文化的にも大きな変革を遂げた時代の中心でもありました。また、今日21世紀は人類にとっても改めて大きな変革が求められ、期待されてスタートを切りました。今こそ、鎌倉も新しい時代を創造した古えの様に、再び未来への文化的発信を可能とする都市になって欲しいと、一世紀を生きてきた鎌倉の一市民としては、切に望んでおります。その為には、その要として図書館がその役割を果たし、次の百年を目指し、益々発展される様心から願うものです。益々のご発展を心より祈念しております。
石渡弘雄
平成二十二年六月十五日

「夢また夢の思いで草」
2014年6月20日第一刷発行
著者 石渡弘雄
発行所 石井印刷株式会社