お父さんの「百三歳を祝って」

 次女 岡内 美代子

 お父さん、百三歳の誕生日を迎えられますね。本当におめでとう御座います。心からお慶び申し上げます。これまでこれと言って大きな病気もしないで、この長い年月(としつき)を生きてこられました。これは大変素晴らしい人生です。私達は一口に百三歳と申しますが、これがどんなに大変な月日であり又、深い意味を持っているかと言う事を改めて強く受け止めたいと思います。
 先日、市役所で平成二六年四月一日現在の資料を調べましたところ、次のような事が分りました。鎌倉市の人口は約一七万三千人、其のうち百歳以上の方が百二七人いらっしゃいます。昨年より十三名増えています。男女の割合は女性が百十一名、男性はたったの十六名です。その十六名の内訳は次の通りです。

  百歳・・・八名
  百一歳・・・四名
  百二歳・・・三名
  百五歳・・・一名

 従って現在の男性の最高齢者は百五歳です。ちなみに女性は百十二歳です。お父さんの様に、手助けしてもらいながらでもなんとか普通の生活をされている方は、鎌倉について言えば殆どいらっしゃらない様です。お父さんはこの事について常日頃、今日までこの様に元気でいられるのは、丈夫な体に産んで、育ててくれた両親の御陰なので、両親には深く感謝せねばと申しております。
 健康管理の面では一週間に一回、リハビリの先生の指導で運動し、二週間に一回は本問診療の栗原先生が見えて、血圧や脈拍を測ったり、体調の具合など、全体のチェックをして頂いております。現在は特に何も問題は無く、日々つつがなく生活しておりますので、ご安心ください。近頃は時に、先生と趣味の骨董や歴史の話に興ずることもあり、先生の訪問を楽しみにしております。
 先日、長寿遺伝子の研究が専門の順天堂大学の白澤卓治先生がこんなお話をしておられました。百歳以上で自立して生活しておられる方はまず明るくて前向き、好奇心が強くチャレンジ精神が旺盛、そしてどんな苦しい場面にあっても、それを乗り越え、人生を楽しんでしまうと、私は、今までのお父さんの生き方が、まさにこの条件そのものと思いました。
 昨今、テレビや雑誌で鎌倉のことが盛んに取り上げられておりますが、それはあくまで観光を中心とした観光客のための観光情報としての鎌倉です。鎌倉に生まれ、今日まで百余年鎌倉に暮らし、鎌倉の歴史を身をもってつぶさに見てきたお父さんにとっては、大変嘆かわしい事に映っているようです。自分の愛する鎌倉の歴史とか文化のことをもっと皆さんに伝えたいと前々から申しておりましたが・・・。
 お父さんは、一昨年末から一念発起して、新しい挑戦を始めております。自分の目で見てきた鎌倉、大好きな懐かしい鎌倉の姿をせめて子供や孫達に残しておきたいと「わたしの鎌倉」とでも申しましょうか、色々な思いを筆に託しております。車いすを上手に操って、狭い納戸に入り関係資料を探し出し、もう一度記録を調べ直したりしております。時には、食事をするのも忘れる程に集中しております。そばで見ていても本当に頭が下がります。
 お父さんのこのチャレンジ精神、好奇心、長寿の遺伝子は私達にも受け継がれている筈ですから、私たちも、お父さんの熱い志や思いを是非受け継いで、これからの人生に生かしていきたいと思います。
 今日まで、お父さんが私達にかけて下さった愛情の数々に心から感謝し、その輪が広がっていく様に願っております。       

平成二十六年四月三日記

🔹写真は鎌倉 海蔵寺

「夢また夢の思いで草」
2014年6月20日第一刷発行 
著者 石渡弘雄
発行所 石井印刷株式会社